　死んだと思ったが、目を覚ましたら、白い世界が見えた。雲の上のような世界。
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けないですね」
　そんな言葉を言いながら、笑顔でこちらを見下ろすのは、メーレだった。
「め、メーレ様？　僕は、死んだのですか？」
「ええ。ローゼの毒によって、あなた、クロード、カイは命を失いました。しかし、神の計らいによって、再び命を得たのです」
　目の前の状況がよくわからないエリク。つまり、まだ異世界からは脱出できていないということか？
「もう一度だけ、あなたたちを地上へ降ろしてさしあげましょう。ただし『次』はありませんからね」
　メーレはニコニコしているが、どこか恐怖を感じる。
「さぁ、行きなさい、勇者よ。あなたの友人が待っています。彼らと共に魔王を倒し、世界に安寧をもたらすのです」
　メーレの言葉を聞いている間に、エリクは意識が遠くなり……。
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「……リク、エリク！　大丈夫かい？」
　エリクが目覚めると、クロードとカイが心配そうに自分を覗き込んでいた。
「え、ええ」
「まさか、ローゼさんがあそこまで強いとは……意外でした」
「で、これからどうする？」
　クロードの問いに、二人は首をひねる。
「このままだと魔王を倒せないどころか、ローゼさんにも勝てませんよね」
「でも、どうすればこの状況を覆せるんですかね……」
　三人寄っても文殊の知恵は出てこず、エリクたちは頭を悩ませる。その時だった。
「おーい、カイー！」
　空からバサバサと翼の音が聞こえ、オレンジ色の髪の天使が降りてきた。カイの弟であるティスだ。
「ティス！　何か用？」
「いやー、メーレ様がさ、言い忘れてたことがあったって言うから、オレが伝えにきたんだ！」
「言い忘れていたこととは？」
「魔王の倒し方だよ！」
　その言葉を聞いて、エリクたちは驚く。そして、ティスに詰め寄った。
「今すぐ聞かせてください！」
「とても重要な情報だよ、それは！」
「早く、早く！」
「うぉ！　ちょ、ちょっと待ってよ〜。一つ一つ話すからさ！」
　ティスはとりあえず三人を落ち着かせ、話を切り出した。
「まず、君たちはそれぞれステータスがあるの。ステータスを見たいと念じて、手を前に広げれば自分のステータスを見れるよ」
　試しにやってみると、先ほどのボードらしきものが現れた。クロードとカイのもある。
『エリク　勇者 Lv.10』
『クロード　賢者 Lv.12』
『カイ　天使 Lv.17』
「え、キミたちそのレベルで魔王城に行こうとしたの！？」
　目を見開くティス。
「え、ダメでしたか？」
「ダメっていうか、キミたちずいぶん無謀なことするね〜。魔王城では、最低でもLv.50は無いとすぐ倒されちゃうよ」
「ご、50！？」
　なるほど、一撃で倒されるわけだ。
「あ、でも、最初に僕がこれを見た時は、Lv.8だったけど、2増えてますね」
「そう、そこ。キミたち、ローゼに会う前に、何体か魔物を倒したでしょ？」
「はい、結構大変でしたが……」
「この世界はね、魔物を倒すとレベルが上がって、どんどん強くなるんだ！　倒したのが強い魔物ほど、レベルはグンと上がるけど、まずは地道にスライムとかから倒してみてね」
「ああ、対ローゼの二の舞は御免だよ」
　さらにティスは説明する。
「あと、自分の名前の隣に書いてあるのは役職って言って、役職ごとに役割が違うんだよ」
「たとえばどんな風にですか？」
「うーん、勇者は魔力をこめた剣で敵を攻撃する役職、賢者は魔法で味方の能力値を高めたり、魔法で攻撃したりする役職、天使は味方の体力や魔力を回復させる役職だよ」
「天使って、役職っていうよりは種族って感じがしますけど……」
「エリク、細かいことは気にしないんだよ」
　苦笑いするクロード。
「それから、魔王城に行く前に、村があったでしょ？　そこで仲間を集めるのも良いアイデアだと思うよ。ま、集められるかはキミたち次第だけどね」
　さてと、とティスは話を締めくくる。
「ここまでがメーレ様の伝言だけど、何か質問はある？　オレが答えられる範囲で答えるよ」
「えっと、ティスさんは仲間に入ってくれないんですか？」
「ティス、こういうの楽しそうとか言って、入りそうなのに……」
　カイがそう呟くと、ふてくされたように、ティスは口をとがらせる。
「オレだってすっごく入りたいよ！　でも、メーレ様に『ティスはこの前出した課題がまだ終わっていないから、メーレと一緒にやろうか』って暗に行くなって言われてるんだよ〜。サボったら結構ヤバそうだから、今回はパス」
「……じゃあ僕は？」
「これを持って行くんだったら行っても良いって」
　そう言ってティスが取り出したのは、大きい木箱だった。
「え……何これ」
「ポーション」
「ポーション？」
「うん。ポーション１００個」
「ひゃ、１００個！？」
「うん。１００個」
「……」
「じゃあ、頑張って！」
　能天気に、ティスはその場を飛び去ってしまった。
「天使って回復できるって言ってましたよね。あれ、いります？」
「……さぁ。考えるだけ無駄なように思えてきたよ」
　こうして、エリクたちの魔王討伐に向けての旅は始まったのであった。
—𝑻𝒐 𝑩𝒆 𝑪𝒐𝒏𝒕𝒊𝒏𝒖𝒆𝒅...—